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IoTキュレーション

2019年6月18日

米国のファーウェイ禁輸措置が意味するもの

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中国東莞市にあるファーウェイの研究施設=同社提供

 

米国のトランプ政権が中国の通信大手ファーウェイ(華為技術)に対して行った禁輸措置が波紋を広げている。貿易では自国の利益を優先する保護主義の立場をとり、中国については強硬な態度を見せてきたトランプ氏。ファーウェイはそうした米政権の「標的」になった形だ。

 

同社はスマートフォンなどの携帯端末のほか、通信用の基地局や中継塔も手掛ける世界最大の通信機器メーカー。世界の通信技術の分野で存在感を増しつつあり、とりわけ次世代の通信規格「5G」の開発では北欧のエリクソンやノキアと共に大手の一角を占める。今後の5Gの開発・実用化を含め、ファーウェイに対する措置がどのような影響を及ぼすのだろうか。

 

不安視する米国

ファーウェイの創業者である任正非氏が人民解放軍の技術者出身であることから、かねて米国は同社と中国政府と関係を不安視。スパイ行為が行われる恐れがあるとし、12年には米下院の報告書で公式に懸念を表明するなど、躍進するファーウェイを警戒していた。一方でファーウェイは、政府とは関係のない私企業であることや、通信業界で共通するサプライチェーンの存在などを挙げて反論し、米国の疑念の払しょくに努めてきた。

 

トランプ政権は5月17日、ファーウェイと関連企業66社を禁輸対象リストに追加し、一段と強い態度を示した。こうした中、IT大手Google(グーグル)がファーウェイの携帯端末向けに基本ソフト(OS)などサービスの提供を中止することが明らかになった。グーグルはファーウェイの既存機種に対するサービスは続けると発表したものの、新規端末への対応については明言を避けており、提供はいったん打ち切られるとの見方が支配的だ。

 

ファーウェイもサービス停止の影響は限定的とし、鎮静化に躍起だ。ただ、日本ではKDDI(au)やソフトバンクなど通信サービス大手3社が予定していたファーウェイ製スマートフォンの発売を延期すると発表。英国でも通信大手2社がファーウェイの5G対応スマホを取り扱い製品から外す方針を打ち出すなど、影響が出始めている地域もある。

 

米国の狙い

中国経済に詳しい東京大学の丸川知雄教授(社会科学)はファーウェイが日本市場から排除される可能性が浮上した今年1月の時点で、5G機器の開発などにおける同社の影響力や存在感を「ファーウェイ問題の核心」(ニューズウィーク日本版1月22日付電子版)ですでに紹介していた。丸川氏は米国がファーウェイに疑念を抱く理由について、米当局が過去に国内の通信・IT大手各社に協力させて情報を集めていた例を挙げ、米国は中国もファーウェイを利用して諜報活動を行うとの見込みに立って、そうした動きを未然に防ごうとしているのだと看破している。

 

米国は18年、経済制裁中のイランや北朝鮮に通信機器を輸出したとして、同じく中国の通信機器大手ZTE(中興通訊)にも禁輸措置を課している。中国企業によるスパイ活動支援を疑うのは、丸川氏が指摘するように、米国自身も企業を使って「不正」を働いた経験があることも大きいだろう。

 

メリットなし

トランプ政権の保護主義的な姿勢については、専門家から批判する声も上がっている。

ダウジョーンズの元記者で編集者のジョナサン・シーバー氏はテクノロジー系ニュースサイト「TechCrunch」の記事‘Trump’s Huawei ban ‘wins’ one trade battle, but the US may lose the networking war’の中で、ファーウェイが進出する新興経済諸国や発展途上国では、米国の影響力が弱まっていると指摘。中国の海外投資額が米国より多い現状を挙げ、世界での米国の影響力の低下について触れる。技術的にも覇権を握ろうとする中国に対峙するには、経済発展に取り組まなければならないとし、このままでは米国が孤立するのでは、と懸念を示している。

 

18年に国内通信網の構築業務でファーウェイを締め出したオーストラリアからも同社への制裁を批判する声が上がっている。豪ラトローブ大学のミシャ・ケッチェル研究員は、NPO団体「コンバセーション(The Conversation)」のウェブサイト上に‘Blocking Huawei from Australia means slower and delayed 5G – and for what?’を寄稿。5Gの開発でファーウェイが北欧2社に水をあけていることや、他社に変更せざるを得なくなった通信業者の金銭的な負担は最終的に消費者に転嫁されることなどを指摘しながら、制裁は5Gの普及を後退させるだけだと主張する。中国によるネット上での諜報活動が公然の秘密ではあっても、ファーウェイがそれに協力している証拠はないとしている。

 

日本に飛び火も

米中貿易戦争の余波を感じさせられたのが今回のファーウェイ問題だろう。価格の割に高性能とされる同社製スマートフォンは、SIMフリー版を中心に日本でも支持を広げつつある。国内の通信各社大手も今夏の新製品販売計画を延期するなど、制裁の影響は目に見える形で広がった。

 

一方、ファーウェイは携帯端末用に独自のOS開発を進めているとされ、事態は長期化の様相を呈している。IoT社会に欠かせない技術としてさらなる普及が期待される5Gで世界をリードしている同社。業界での定評に加え、市場での影響力を示した上で、米国の圧力に屈しない姿勢を示せれば、さらに評価する声も出るはずだ。

 

今回の騒動は私企業を通じた米中の覇権争いと見ることもできるが、米政府による海外の世界大手を狙った禁輸措置は、関税やさらなる市場開放をめぐって米国と対立する日本にとっても対岸の火事ではないはず。世界に展開する日本企業が標的にならない可能性はないからだ。ファーウェイを日本企業に置き換えて考えると見え方が違ってくるだろう。