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グローバルのヒント

グローバル・コネクター

2020年4月9日

第4回 「人に会って信頼できるネットワークをつくる」齊藤整さん

今回のゲストは商標登録を専門に取り扱う事務所を経営する弁理士の齊藤整さんです。

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木暮 商標を専門に扱うのですね。

 

齊藤 もともとは商社でプログラマーをしていたのですが、同期入社で転職した友人が「特許事務所に入ったら年収が倍になった」と話しており、興味を惹かれて弁理士を目指しました。1次試験の合格後に声をかけてもらった大手事務所で、担当の上司が商標の専門家でした。そこで「日本担当」になりました。英語が苦手だったので安心していたらこれが大間違い。海外から来る仕事を日本で担当する仕事だったのです。もう英語必須です。さらに上司が英語に厳しい。これはまずいことになったなと。

 

木暮 それは大変だ。

 

齊藤 英語は赤点の苦手科目。「英英辞典って何?」のレベルです。中学英語からやり直しです。最初はこっそり翻訳ソフトを使ったりしましたが、ぼろが出て大目玉を食らうことも。

 

木暮 私も英語では苦労しました。法律関係は専門用語も多そうですね。

 

齊藤 分からないことだらけです。「アプリケーション」という単語ひとつとっても、「申請」ではなく、コンピューター用語の「ソフト」の意味しか知りませんでした。四苦八苦してやっているうち、コンピューターの知識があったので、英文を切り貼りしてデータベースにすることに気付きました。英語がきれいな海外代理人の文章を拝借して使っていると、事情を知らない先生から英文を褒められることもありました。

 

木暮 ITの知識が役立ちましたね。

 

齊藤 ただ、読み書きはいいのですが話すとなるとさっぱり。アジア圏で使われている英語なら、と思っていましたがインド人独特のアクセントに愕然。それでも海外に行っていると、度胸だけは買ってもらえるようになりました。「そんな英語なのによくここまで来られたな。逆にすごい」と。

 

木暮 10年目で独立。

 

齊藤 上司の影響です。自分でも最初からやってみたくなりました。特許担当の知り合いと組んで事務所を4年間共同経営して経営の勉強をし、その後、商標を単独で扱いたいとの思いから新たに事務所を立ち上げました。商標を専門にする事務所は当時、西日本になく、周りからも無理だと言われていました。それなら自分がパイオニアになってみたいと。

 

木暮 先駆者にはリスクとリターンがありますものね。順調にいったのですか。

 

齊藤 独立後2年ぐらいは顧客がありません。時間があるので区民プールに行ったり、ウェブを開発したりしていました。それでも講習会などを開くうちに、少しずつ顧客が付くようになりました。商標専門をうたっているので、特許に関しては別の事務所を紹介していると、その事務所からは商標の案件を紹介してもらえるようになるなど関係ができてきました。実務を修行させていただいた業界大手とは今でも良い関係を保っており、独立後も事務所に遊びに行きます。外国人には同業者に案件を紹介することが不思議なのか、「どうして同業他社と仲良くするのか」と聞かれることもあります。

 

木暮 これが普通だと。

 

齊藤 プライベートの付き合いは全く大丈夫です。大阪の国際関係の弁理士はお互い仲がいいですよ。大阪では普通だと思います。彼らもこうした関係を「ユニークだ」と表現しますが、大阪のことを褒めてもらっている気がしてうれしいです。

 

木暮 海外では商標をめぐる動きはどうですか。

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齊藤 海外の国の法律自体は日本からも閲覧できますが、解釈や運用、実効性については当事国で解釈が異なります。「商標は似ていてはいけない」というルールがあっても、どこまで似ていたらアウトなのかという判断が各国でバラバラ。大まかに言うと日本は音を重視しますが、アルファベット文化の欧米は構成文字、見た目重視と言えると思います。ここで重要になるのが現地とネットワークがあるかどうかです。事情に精通した現地の代理人を知っていれば、生きたコメント(助言)が入手できます。実際に商標権は国ごとで取得しなければなりません。問題が生じれば、その国の専門家の判断を仰ぐわけです。

 

木暮 ネットワークはどのように広げるのですか。

 

齊藤 大手に勤めていた時に知り合った人もありますが、私が毎年必ずいくつかの国際会議に出向いて、どの事務所の所長が交代したとか、誰が独立したか、といった情報収集をしています。

 

木暮 意外です。法律の世界には四角四面であまり血の通わないようなイメージを持っていました。人との交流が大事なのですね。

 

齊藤 国際登録は日本でもできますが、何か問題が起きたら現地の事務所に対応を頼みます。うまく商標が登録できない地域も、現地に方策などのアドバイスをお願いすることになります。

 

木暮 日本から海外に仕事を依頼する場合、文化や習慣の違いが気になることはありますか。

 

齊藤 もめやすいのは「タイムチャージ」の考え方です。日本では手続きごとに費用が発生しま すが、海外は手続きにかかった時間に対して費用を払う場合も少なくありません。時間制の請求には日本のクライアントは抵抗感があるといった事情が分かっている代理人には頼みやすいです。案件の解決後に、こちらが頼んでもいないコメント分を請求に加算するような事務所は敬遠されますね。

 

木暮 日本側も海外の商習慣を理解する必要がありますね。

 

齊藤 国際登録がなくても海外進出できないわけではないですが、必ず後で困ることが出てきます。現地の代理店を使えばその地域の事情を踏まえたコメントを得られます。日本企業は保守的で国際登録制度を使いたがらない傾向がありましたが、今ではメリットが知られるようになってきており、最近は利用が伸びています。海外で勝負にうって出るときは間違いなく商標が必要です。何かブランドの「旗印」となるものを決めて商標権を取ることをお勧めします。そうしないと海外でモノを売ることができません。また商標は「生き物」のようなところがあり、時代や地域によって判断が異なってきますし、何度でも登録をチャレンジできるのが魅力です。コカ・コーラ®やヤクルト®の容器デザインも、何度も登録にチャレンジした結果、単なるデザインから、商標として保護されるに至りました。認知度が上がれば商標として認められます。商標は更新する限り永久に続く権利です。

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木暮 海外のパートナーを選ぶ際に何を重視しますか。

 

齊藤 共通の趣味があるとか、私とウマが合うかどうか、ということもあります。専門性はもちろん大事です。海外から営業マンとして来日しているだけなのかも見極めなくてはいけません。売り込みの上手な事務所は日本のユーザーが集中することがあり、そうなると優先順位の低いユーザーへの対応が疎かになったり待たされたりすることもあります。

 

木暮 今では英語が欠かせませんね。

 

齊藤 小さいときは外国人の友達にあこがれていました。仕事で知り合った韓国人と仲良くなり、当時小学1年生だった息子を単身渡航させて預けたことがあります。海外の見学ツアーで隣同士になったことが知り合いになったきっかけなのですから、人の縁は大事ですよね。(おわり)

 

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