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グローバルのヒント

グローバル・コネクター

2021年5月27日

第33回「意見を受け入れて試してみる」鈴木皓矢さん/「ノーと言われてもあきらめない」林祥太郎さん

今回のゲストは、大学卒業後に留学したスペイン・バルセロナで研さんを積み、帰国後はそれぞれプロ演奏家として活躍。現在はチェロとクラシックギターの音楽ユニット「Duo Chispa(デュオ・チスパ)」として活動する鈴木皓矢さん(チェロ)と林祥太郎さん(ギター)です。 

DuoChispa-sama_2.png

木暮 アーティストになろうと海外に渡ったきっかけは?

 

林 経済学部へ進学したのですが、ギタリストになる夢が捨てきれませんでした。大学を卒業したもののあきらめきれず、出場した国内のコンクールで評価され決心がつきました。クラシックギターの本場であるスペイン・バルセロナへの留学を両親に打ち明け、背中を押されました。

 

木暮 それまで海外経験は?

 

林 大学時代にスペインの音楽祭に行ったのが初めて。機内では「生きて帰れるだろうか」と不安でたまらず、気分が悪くなるほど緊張しました。「行きたくない」という感情が7割を占めていましたが、残り3割の「行きたい」という気持ちを信じて。それまで殻に閉じこもっていた自分を打ち破るきっかけになりました。スペインに行って今があります。

 

鈴木 私は両親が音楽家で、海外もなんとなく見据えていました。留学先を検討する中で、スペインのチェロ奏者、ルイス・クラレットと出会い「この人についていけば成長できる」と確信しました。

 

木暮 別々の楽器が奏でる世界に圧倒されます。

 

鈴木 クラシック音楽の枠を超えて何か面白いことをしたい、と思っていました。チェロと違って旋律もメロディーも単独でできるギターに注目していたところ、日本からスペインにギター留学していた林を知人から紹介されました。

 

林 チェロはギターの3~4倍の大きさの音が出るなど音量が圧倒的に違い、組み合わせるのは世界的にも珍しいのですが、現代のテクノロジーを使えば違いが埋められると思いました。そういう組み合わせから、今後はもっと面白い音楽が生まれる、というのが結成のコンセプトです。

 

木暮 奥が深い。

 

林 二人が引き立つように演奏を工夫するとか、もがいていると新しいアイデアが生まれます。挑戦するのは大変ですが、何かが生まれるきっかけになる。面白味や「わくわく感」があるんです。

 

鈴木 「達成できたらすごいよね」という期待です。

 

木暮 プロジェクトマネジメントの世界も、融合しづらい組み合わせをどうつなぐかで必死です。日本のように「以心伝心」や「相手を察する」という考え方はなさそうですね。

 

林 ないわけでありませんが、違うと思うことは伝えます。「この曲は嫌い」や「その表現は違うと思う」ときっぱり言う。相手に合わせてしまっているのかもしれないのですが、「同じ人間なんだ」と感じます。こういう表現をすれば向こうは「こうしたいんだな」と感じとる。音楽が共通言語です。

 

鈴木 音楽の場合は演奏力も大事。留学当時、リハーサルが始まっても練習してこないピアニストに直接抗議して衝突したこともありました。一方、共演するのが楽しいと思えるようなピアノ奏者もスペインにいました。

 

林 人それぞれなのに、まとめて「ラベリング」しがちです。実際はそうじゃない。

 

木暮 海外出張した際「日本人は絶対に時間を守る」と紹介された現場に遅刻したことがありました。人によって違いますよね。音楽は主張し合うものですか。

 

林 もちろん主張もしますが、相手の言うことも尊重します。アイデアに対して自分がどうできるかを考えます。

 

鈴木 同じような音楽性を持つ人と演奏したい、という希望はあります。レッスン中に門下生が自分の先生に「僕はそう思わない」と反論する光景をよく目にしました。指導者から言われたことを日本人が受け入れるのは「強み」です。経験が豊富な先生の指摘を自分で消化し、違うなと思ったら別の方法を試せば良い。その場で言い返すのは生産的じゃない。「1回やってみればいいのに」と思います。 

 

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木暮 日本人はおとなしすぎる?

 

林 長所でもあると思うのですが、相手の反応を気にしてしまう。スペインに渡ったら自分を抑えていた「リミッター」が外れました。環境がそうさせるのだと感じます。

 

木暮 英語では強い口調で話したり、日本語では口にしづらいことも言えます。

 

鈴木 英語の場合は「頑張って話そう」と前に出る感じ。スペインだと背もたれに寄りかかりながらトークするイメージ。

 

木暮 海外生活で気を付けていることは?

 

林 相手の懐に入っていくことですかね。「ノー」と言われても引かずに食らいついたら「イエス」に変わることがありました。 

 

鈴木 欧州にいるとそういう場面は多い。一見すると近寄りがたそうでも、話してみると良い人だと分かることがある。表面上はウェルカムな感じで応対する日本と違って、欧州は「お前は誰だ」から始まる。

 

林 来るものは拒まないけれど、来ない限り何もない世界。

 

木暮 入り込むには?

 

林 何回も足を運んで顔を見せることでしょうか。そのうちに相手も「また来たね」と。実現させたい要求があるから何回も行く。熱心に訴え続けたら友達になれます。言葉が分からない時期は、積極的に相づちを打つようにすると仲良くなりやすかった。言葉が出ない時には笑顔で「Si(はい)、Si(はい)」と言っていました。

 

鈴木 何か実力を示すのもひとつ。相手の目を見て話すのも大前提です。3つくらい例文や話したい内容を事前に調べておき、自分から話しかけて言葉に慣れていく。その繰り返しです。

 

林 「スペイン語でなんて言うの?」もおすすめ。本当は答えを知っているんですが、「なるほど」と返す。外国で日本語のフレーズを教えるのも距離を縮めるコツです。

 

鈴木 現地語での言い方を尋ねる作戦はよく使っていました。

 

木暮 楽しかった雰囲気が伝わってきます。今後は世界での演奏も?

 

林 コロナ禍でまだ実現していませんが、スペイン人アーティストとのコンサートも企画していました。スペインでも活動を増やしながら、他の国でも演奏したいですね。(おわり)

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