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グローバルのヒント

グローバル・コネクター

2022年5月19日

第57回「7割の見込みを信じる」吉元大さん

今回のゲストは海外向けネット販売事業用のウェブサイト開発などを手掛けるベトナム系IT開発企業「AHTジャパン」で代表を務める吉元大さんです。 

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木暮 海外との関わりについて教えてください。

 

吉元 高校2年生の時に参加した「北米研修旅行」が初めての海外です。1学年の生徒300人が2週間滞在する行事です。

 

木暮 困ったことはありましたか。

 

吉元 現地では雑談も十分にできないまま終わったんですけど、帰国して2週間ほどたってから、実家がホストファミリーとして外国人を迎え入れることになりました。今度は逆に米国の生徒が日本に来ることに。ほぼ日本語が話せないまま来日する彼らに日本を紹介する中で英語を覚えていった気がします。日本で知り合った米国の生徒が再来日した際には、滞在先の丹波篠山と実家を行き来しました。自国に関する知識がお互いに乏しいことが分かり、それを聞き合いながら勉強したのが印象的です。彼が興味を持っている日本の武道について「型の動きはこれで間違いないか」と聞かれても私はお手上げ。それがきっかけで大学では空手を習い始めましたし、祖国を知る良いきっかけになったのだと思います。

 

木暮 交流を継続されていて素晴らしいですね。

 

吉元 当時は手紙やお菓子を送り合ったりしました。彼が送ってくれたというビーフジャーキーが空港で没収されたのは残念でした。その後は海外との交流はほとんどなく、入学当初から憧れていたIT業界への就職を目指していました。卒業する頃には「2000年問題」がひと段落した影響からか、運悪くエンジニアの新卒採用は狭き門になってしまい、営業担当者を探していたIT企業に就職しました。

 

木暮 営業職には抵抗感を覚える学生もいます。

 

吉元 IT業界でやりたい気持ちの方が強く「同じ業界だし職種が違うだけで、まあ大丈夫だろう」と思いました。いろんな物を作っているとか新しいこともやっているという社長の魅力にも引かれて入ったんです。

 

木暮 営業はどうでしたか。

 

吉元 教えてくれる人が社長のみ。新人の私に「頼んだぞ」の指示だけでした。振り返るとよく任せてもらえたなと思うぐらいです。営業をしていた社長の補佐のような立場で入社したんですが「ほかのエンジニアの面倒も含め、できるだけ全部やってくれ」と言われるようになりました。でも簡単にはできないですよね。

 

木暮 何とかしてくれるんじゃないかという期待があったのでは?

 

吉元 実際にやらせてもらいましたが会話もおぼつかず結構ひどかったんで、当初は迷われたんじゃないかと思います。そのうちに仕事も段々と取れるようになってきて、そこからは「あとはもうよろしく」という感じで、社長は営業に一切関わらなくなりました。会社は従業員が百人近くまで増えるなど大きくなりました。当時多かったのは業界で「SES(システムエンジニアリングサービス)」と呼ぶ、クライアントに技術者を派遣するサービスです。そのうち自社の開発やAI(人工知能)といった新しい技術を手掛け、金融機関向けのアプリケーションなどで評価されるようになりました。

 

木暮 オフショア開発の拠点をベトナムにしたのはなぜですか。

 

吉元 候補地として話を進めていたのは、現地で英会話学校の手伝いをしていたフィリピンのほか、今後の可能性や予算的に魅力的なミャンマーを含めた3カ国です。社長に提案したところ、日本語ができる人材が増えているベトナムに決まりました。

 

木暮 立ち上げはどうでした?

 

吉元 フィリピンでの経験があったので、想定していたよりは淡々と物事が進んじゃったんですよ。許認可の手続きも2カ月は遅れると聞いていましたが、間に入ったコンサル会社に催促してひと月で進みました。現地のエージェントの手続きに同行する際は先を読んで細かく質問することを意識しました。

 

木暮 先を見て質問することは大事です。以前からそういう聞き方を意識されているのですか。

 

吉元 企画好きなのが関係しているかもしれません。新しいことをやる際は、少し先を見て何ができるかなと考えながら準備していました。海外拠点を作るという使命を果たせば終わり、コンサル会社の指示通りに動いて終わり、というわけにはいきません。進出後の採用や運用を見据える必要があります。いろいろと気になることは必ず人に聞くことと、既にベトナムに進出している方と積極的に知り合いになってネットワークを作るようにしていました。

 

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ハノイ工業大学を訪問する吉元さん(中央)=本人提供 

 

木暮 先読みして要所を押さえリスクを考える。プロジェクトマネジメントですね。

 

吉元 やり方としては良くも悪くも中途半端なのかもしれません。ひとつの事に深掘りしきれない。そうなると、その周辺の状況が気になり、そこを埋める。感覚的には8割ぐらいでいこうか、というようなことが多いですね。実際は7割ぐらいなんでしょうが、大体この辺りまで想定しておこうかな、というのは気を付けていますね。

 

木暮 大事な考え方です。100%を期待する人は案外多いのですが、その考え方だと足りない部分やできない理由が気になってストレスがたまる。初めから7、8割でいくというのは良い案分ですね。

 

吉元 100%の計画だと逆につまらないんじゃないかとも思います。計画を立てた人以外は全く面白くない。追加できそうなプラスアルファをしようにも「計画に無駄がなくてできません」と言われたりしますから。それもあって新しい仕事でもそうしています。新プロジェクトの引き合いがあれば「7割できる見込みならやろう」「7割あれば絶対できる」と言っています。エンジニアには乱暴な営業に見えるようですが。7割以外の不確定な部分はリスクとして見る。ベトナムのエンジニアは高度な技術があって勉強熱心です。これまでの成果を信じて積極的に仕事を取りにいくようにしています。実績を気にされるお客さまに対しては「大体このぐらいであればできます」と話して理解してもらいます。説明できる内容も全体の7割ですから、残りは誰かに埋めてもらう必要がありますけどね。

 

木暮 同じことをするだけではなく、学ぶ楽しさや自分が成長する喜びは大事な要素ですね。

 

動かざるを得ない環境を作る 

 

木暮 放任しているようで楽しみも残しておくマネジメントスタイルですね。

 

吉元 以前は指示が細かかったと思います。若い営業部員が自分よりも細かくやってくれるのに気付いたときに「もうここは任せちゃえ」という感じにしました。そのスタイルの方が自分の本質だったのかもしれないです。

 

木暮 若い社員は言わないと動かないとも言われます。

 

吉元 私が言っても動かないことが分かっている場合は、動かざるを得ない空気を意図的に作るようにしていました。エンジニアの責任者やお客さまから言われたら、さすがに動かないといけない。そういう環境を作ってしまう方が早い場合もあります。ずるいやり方なのかもしれないですね。そのまま進めたら絶対に相手は怒るだろうなと思いつつも反対せず「じゃあ、やってみて」と。案の定、怒られるんですが。

 

木暮 その方が勉強になって成長するということですね。やらせるにも忍耐が必要で難しい道です。

 

吉元 いやいや、その方が楽なんです。自然に動いてくれるし、自分が怒らなくてすみますから。

 

木暮 成長を期待して待っていてくれたり、本人が動きやすくするための道を選んでくれる人は少ないと思いますよ。

 

吉元 怒られる前に指摘してほしかったと思う人もいると思います。一方で「怒られてしまったけれど、自由にさせてもらったからまあいいか」と理解してくれる人もいました。

 

木暮 その後に独立されますね。

 

吉元 ベトナムにIT拠点を作りたい日本企業をつなぐビジネスを模索する過程で、工業団地や大学の見学ツアーなどを副業としてやっていました。その中で知遇を得たベトナム人経営者から日本進出の構想を聞いた後、別件で訪ねた神奈川県庁で偶然、日本市場に参入するベトナム企業を探している話を持ち掛けられました。

 

木暮 縁ですね。

 

吉元 事業資金などもとんとん拍子で確保でき、そのベトナム企業の日本支社として事業を立ち上げることになりました。コロナ禍で越境EC(電子商取引)のニーズが高まっており、自分たちでシステムを持ちたい企業からの依頼が徐々に増えています。 

 

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タイグエン大学の学生と記念撮影する吉元さん(前列中央)=本人提供 

 

木暮 システム開発には「要件定義」など当事者の共通理解が不可欠です。ベトナム人にとって日本企業とのコミュニケーションで難しい面はありますか。

 

吉元 重要なのは「ITコミュニケーター」(通訳)だと感じます。日本語能力というよりも業務分析能力があるかが大事です。エンジニアより好待遇にしたい優秀なITコミュニケーターはベトナムには多くいます。

 

木暮 今後の目標は?

 

吉元 会社の規模を拡大しながら、その売上を海外のネットワークを使った新サービスの立ち上げに活用したいと考えています。電動バイク販売がそのひとつです。普及を促進するためには太陽光発電やバイオマスといった電力供給の問題にも対応できるといいなと思っています。(おわり) 

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