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グローバルのヒント

グローバル・コネクター

2021年4月15日

第30回「リフレッシュ方法を見つける」大野均さん

記念すべき第30回のゲストは、日本代表として歴代最多の98試合に出場し、42歳まで現役で活躍したラグビー界の「レジェンド」大野均さんです。

木暮 海外を意識し始めたのはいつでしたか。 

 

大野 東芝のラグビー部に入ってからです。チームメイトの外国人選手とコミュニケーションを経験したのが初めてです。国際プロリーグの「スーパーラグビー」を見て、スピードやぶつかり合いの激しさに目を奪われました。ここで日本人がプレーするとは想像もできず「夢のまた夢だな」と。

 

木暮 厳然たるレベルの違い。外国人と一緒にプレーする難しさは感じましたか。

 

大野 選手のレベルが高くてやりやすかったです。サインプレーや用語もほとんど英語です。東芝の選手もハイレベルで勉強になりました。2003年に短期でニュージーランドにラグビー留学でき、外国人としてのプレーも経験しました。言葉は通じなくてもラグビーという「コミュニケーションツール」を一緒にできた。いいプレーをすると「胸パンチ」で祝福してくれて楽しかったです。

 

木暮 カルチャーショックは?

 

大野 日本では恵まれた環境でやらせてもらえていたことに気付きました。向こうの選手は仕事が長引いて練習への合流が遅れようが、着替えた途端タックルや激しい当たりの応酬。ウオーミングアップも選手任せです。試合直後に「メンバーが足りないから、もう1試合出て」と言われたこともありました。 

 

木暮 日本はラグビーが中心。東芝のような国内最高峰のチームだと求める要求度も高い。

 

大野 高いレベルになればなるほどチームが求めてくるものも明確になります。日本代表でのセレクションポリシー(選考基準)がハードワークと激しさだったことも、長く代表に選ばれた理由かもしれません。求められる要素はコーチによって異なります。器用だったわけではなく、できることをやり続けたら呼ばれていたという印象です。海外チームと比べると、ポジションとしての体格は小さい方です。運動量で勝たないと貢献できないという気持ちが強く、ハードワークをより意識するようになりました。

 

木暮 年長者や指導者の意向が重視されがちな日本に対し、自分で考える世界標準との違いを感じたことはありますか。

 

大野 コーチが代わっても順応できるのが日本人の特長です。エディー・ジョーンズ(日本代表前HC)さんの時には、細かく管理される中で2015年のワールドカップ3勝という成果を上げました。直後に就任したジェイミー・ジョセフHCは自主性を持たせた。15年を経験した選手がハードワークの大切さを実感し、19年の結果につながったのだと思います。周りの環境が変われば順応できるものだと思います。日本代表に選ばれる選手はラグビーが大好きで「うまくなりたい、勝ちたい」という純粋な欲求があります。柔軟な考え方も自然に身につくような気がします。 

 

木暮 日本にやって来た外国人選手がチームになじめるために心掛けていることはありますか。

 

大野 外国人選手は自分からチームや日本に溶け込もうと努力しています。毎朝会うたびに全員にハイタッチをしてきます。来日当初から日本の文化を理解しようとする選手ほど長くいるようです。まだ来日して2~3カ月なのにカラオケで日本の歌を披露した選手もいました。

 

木暮 海外遠征で現地の人との交流は?

 

大野 日本代表では、いろいろな国を訪問する機会があり、滞在中はひとりで行動する時間を作っていました。現地の大衆酒場や酒店の常連になり、注文しなくてもワインを出されたことや、英国のパブで意気投合したラグビーファンに日本代表の練習ジャージをプレゼントしたこともありました。15年の英国でのワールドカップの南アフリカ戦後のオフに街に出てパブに入り、2、3杯チームメイトと乾杯して帰るつもりだったのですが、日本代表の勝利に感動したお客さんがごちそうしてくれて20杯ほど飲みました。そうした交流も楽しみでした。イタリア遠征で1人で通った店にリーチ・マイケル(19年日本代表主将)を連れて行った時、私がイタリア語で注文する姿を過大評価したらしく、帰国後に私を「イタリア語の達人」としてチームに紹介していました。

 

木暮 ビジネスの世界では、海外と日本の会社がお互いに誤解しないようにこまめにコミュニケーションを取ることが求められます。ラグビーの世界ではどうですか。

 

大野 日本代表に入ってくるのは、「桜のジャージ」に誇りを持っている人。チームで決めたことについては100%コミットしてくれます。代表に選ばれた外国人選手が特に体現してくれます。

 

木暮 「One Team」は流行語大賞に。

 

大野 いろんなポジションと役割が合致してトライが生まれる。最後はひとつにまとまるというのが自然と身につくのかもしれません。明らかに外国出身だと分かる選手が日本代表の一員として勝利のために体を張ってくれる。そういう選手たちの姿を見る人には新鮮だったのかもしれませんね。

 

木暮 チームとして機能するためにどんなことを心掛けたら良いですか。

 

大野 自分のポジションの役割を100%遂行することができれば、他の人も自分の仕事に集中できる。そういうメンバーが集まるのが本当に良いチームワークを発揮できる組織なのだと思います。タックルでミスをせずに止めていればカバーに行く選手は別の仕事ができるわけです。もちろん、何か起こることへの準備は大事。うまくいかなかった時のプレーも準備しています。

 

木暮 日米混成のメンバーで仕事をしました。発想力や考え方が違うので、皆で話しているといろいろなアイディアが浮かびます。

 

大野 外国出身の選手やコーチは「引き出し」が多く、練習でもいろんなアプローチを知っています。海外選手の中には「サッカーもバスケットボールもクリケットもやっていたが、今はラグビー」という人もいます。いろんなスポーツを経験することで柔軟な考え方ができるのでしょう。日本代表の堀江翔太選手や田村優選手もそれぞれバスケやサッカーの経験者です。フォワードにもいろいろな能力が求められるようになってきています。

 

木暮 「引き出しの多さ」はビジネスの世界でも魅力的です。ラグビーのように多様性を認めたり、柔軟な考えを持ったりするにはどうすればいいでしょうか。

 

大野 日本には同調圧力がありますよね。仕事はないのに定時に帰りづらいとか。東芝の外国人HCは金曜日の夕方にオフィスにいると「週末だから早く家に帰ってビールでも飲め」と、柔らかい発想になるように促し、自分の人生を楽しむ大切さを教えてくれます。日本代表での厳しい練習があっても、リフレッシュできるものを見つけられたのが長くプレーを続けられた秘訣かもしれません。外国人から学んだのは人生を自然に楽しんでいる姿。柔らかい発想を持てるようにしたいと思います。

 

木暮 今後は代表監督も?

 

大野 指導には興味がありますし、ラグビー以外でも農業など自分にできることがあれば挑戦したいですね。(おわり) 

 

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