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グローバルのヒント

グローバル・コネクター

2020年6月11日

第8回「交渉は役割分担と演出で」新谷誠さん

今回のゲストはファッション業界を中心にプロデューサーとして活躍し、現在はライフスタイル全般のブランディングなどを手掛けるコンサルティング会社を経営する新谷誠さんです。

 

木暮 おしゃれな装いですね。ずっと企画畑で活躍され、2005年の「愛・地球博」にも携わったとか。 

 

新谷 親会社の伊藤忠商事が愛知万博ではモリゾーとキッコロのライセンス権を獲得しました。万博にはいろいろな会社から精鋭が集まってチームを組みます。ライセンス権の獲得のところから会期終了後の1年間まで密度の濃い3年間を過ごせました。実際に商業的に成功を収め、地元に還元できた事業になりました。 

 

木暮 タイミングもよかったですね。 

 

新谷 今だったら、様々なリスクを考えて難しいかもしれませんね。当時、ある意味で「エイヤー」で進めていました。苦労も多かったですが、当時の関係者とは今でも仲良く交流が続いています。 

 

木暮 企業の裏方として働き、外国企業の人と1年も一緒にいると仲良くさせてもらえます。そういうのが楽しいですね。 

 

新谷 海外での活動は、今年1月にイタリアのファッション展示会「ピッティ・ウオモ」に参加し、ニット製造業者で作る団体「東京ニットファッション工業組合」とニット・ジャージの国内産地である墨田区などを「TOKYO KNIT」として売り込んできました。参加したくても門前払いされることもあるようですが、懇意にしている日本ファッションウィーク推進機構を通して交渉した結果、主催関係者に信用してもらえたようで、良い場所のブースを確保できました。 

 

木暮 人脈は大事ですね。海外で仕事をするようになったきっかけは何でしょうか。 

 

新谷 入社当時はライセンス契約などで繊維メーカーとの折衝に同行していました。英語は達者ではないのですが、何かと頼られることが多かったです。 

 

木暮 伊藤忠はファッションに強いというイメージがありますね。 

 

新谷 実は繊維以外をやろうとしていました。写真のない旅行ガイドブック「アクセス」を当時の先輩がニューヨークで見つけ、一目惚れしました。監修者で情報デザイナーのリチャード・ワーマン氏に日本語版の共同制作をお願いする手紙を出し「東京版をぜひ一緒に作りたい」と先輩と口説きに行きました。 

 
木暮 行動が速い。 

 

新谷 こちらが「一緒にやりたい」と提案したのが良かったのでしょうね。東京版を作ることになりました。日本での制作では「コントリビューション(寄稿)」という手法で、国内の著名アーティストに協力を依頼し、グラフィック・デザインの大家である田中一光氏や横尾忠則氏からも作品を提供していただきました。 

 

木暮 面白いコラボレーションですね。熱意が伝わったのでしょう。 

 

新谷 発想力が評価されたのかもしれません。ガイドブックとしては異例の日米合計で5万部が売れました。 

 

木暮 人は熱意があると動きますか。 

 

新谷 それに、外国人がメンバーに入るとうまく回りますね。 

 

木暮 外国人には相手を尊重して吸収したいという気持ちがあります。ファッションも世界が舞台ですよね。 

 

新谷 ファッション業界はコネクションの世界でもあります。ピッティ・ウオモなどの欧米の著名なトレードショーはイメージを重要視し、日本や中国からエントリーしようにも、なかなか出展ブースはもらえません。今回は主催者とつながりの強い日本ファッションウィーク推進機構から話を持っていったのが功を奏したようです。 

 

木暮 知人からの頼みを重視するのは万国共通かもしれませんね。「この人なら大丈夫だ」という関係を作るのが大事。 

 

新谷 特に欧州はコネ社会です。周囲に聞いたりして、つながっている人を探すほうがすんなりいくものです。 

 

木暮 口説きたい相手に会うときは何を考えて臨みますか。 

 

新谷 ペアを組み、それぞれの役割を決めて挑みます。「いっちょ、かましたろか」というタイプの人間と一緒の場合、私は相手の素晴らしさをディテールから指摘する担当になります。「こんなところに気付いていますよ」とつつくわけです。 

 

木暮 うまいなぁ。相手も嬉しいでしょうね。 

 

新谷 押しも引きも必要ですから。 

 

木暮 戦術家ですね。 

 

新谷 「相手の真正面に座らない」ということにも気を付けます。上司に相談する時は隣に座るか、後ろから話し掛けるようにしていました。 

 

木暮 真正面で向き合うと敵対的な感じがします。話をするときは立ち位置に気を付けたり、戦略を図ったりしているのですね。 

 
 

新谷 このやり方は外国人にも通じます。新規開拓が得意な人とペアを組んで、あらかじめ設定した役割をこなしてもらったり、戦略やプランを練ったりするのは好きですね。交渉では相手に応じてこちらも「演じる」ことが必要になりますから。 

 

木暮 相手の呼吸を見ながら、ということですね。 

 

新谷 契約を進める際は、実現できる見込みの「八掛け」にするのも手。成果物は10割で出し、相手の期待を上回る出来にする。納期もそうです。2週間かかりそうなら「3週間は必要だ」と言う。逆だと怒られますけどね。 

 
木暮 考え抜かれていますね。外国人との仕事で違和感はなかったですか。 

 

新谷 違和感だらけですよ。米国で展示会のディスプレーの設計を手直ししようとしたら、設計変更のための請求見積もりがすぐ飛んできた。 

 

木暮 契約社会だから。 

 

新谷 事前に確認するのがとても大事です。米国だと寸法の単位が日本と違うからか大雑把に見えることもあります。日本で現物を再確認すると全く違う、ということもあります。契約書の文言では「売り上げ」の解釈が「ホールセール(卸売り)」なのか「リテール(小売り)」なのかの事前確認を怠り、後で苦労したこともあります。お金が絡む条項は、双方に誤解がないように徹底的に詰めないとだめですね。「超」が付く心配性になりました。 

 

木暮 むしろ、それは良いことだと思います。外国人から見ると、日本人は細かく指示できないことが多い。それなのに、日本人は契約に記載されていないことも求めがちで、相手を誤解することがあるようです。 

 

新谷 若い頃に作った見積もりは、いま思い出すと細部の詰めが甘いことも多く「ずいぶん大胆だったな」と感じます。 

 

木暮 緻密な計算をしつつ、クリエイティブな視点も必要になるわけですね。画廊主のイメージだ。 

 

新谷 昔、とある人に「右手に絵筆、左手にそろばんを」と言われました。アーティストと商売人の間の見方ができればビジネスになる、と。 

 

木暮 外国人と交渉する際のアドバイスはありますか。 

 

新谷 相手が何に反応を示すかをくみ取ったり、好きそうなことを指摘したりして認めてあげるのがよいのでは。事前に相手がどういう人なのかを知っておくことです。 

 

木暮 それから? 

 

新谷 あとはペアでやること。自分の不得手を補ってくれる人を一緒に連れていく。 

 

木暮 コンビで挑むとは斬新。これは「アラヤ式」と呼びましょう。 

 

新谷 アーティスト役とビジネスマン役に分けるといいのですが、事前の打ち合わせを間違えて、2人とも同じ役で交渉を進めてしまい、失敗したこともありましたね。(おわり) 

 

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