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グローバル・コネクター

2021年12月23日

第48回「信頼にめりはりを」二階堂パサナさん

今回のゲストはタイ出身の旅行ライターとして日本の魅力をインバウンド(訪日外国人)向けに発信する二階堂パサナさんです。(写真はいずれも本人提供) 

二階堂パサナさまProfile.png

木暮 タイには親戚が暮らしていたことがあり、親近感を持っています。食べ物がおいしくて人の笑顔が多い素敵な国ですね。来日してカルチャーショックはありましたか。

 

パサナ 日本人と再婚した母とともにバンコクを離れ、15歳から栃木県で生活することになりました。以前から日本のアニメーションや食事などに触れる機会があり、日本に来てからもカルチャーショックはほとんど感じませんでした。ただ、日本には辛い料理を食べられる場所が少なくて寂しかったことは覚えています。メニューに「辛口」と書かれていても、出てきた料理は赤いだけでした。 

 

木暮 来日前から日本語は話せたのですか。

 

パサナ いいえ、栃木での生活が半年ほど過ぎたころから日本語学校に通い始めました。製造業が盛んな栃木には外国出身者が多く住んでおり、語学学校もたくさんあります。今はオンラインで授業できる学校もありますが、当時は電車で通学していました。来日して5年ほど経ってようやくスムーズに話せるようになりました。

 

木暮 カルチャーショックが無かったのは良かったですね。

 

パサナ タイも日本もお米を食べる文化がありますし、日本人の夫とも食事をめぐる違和感はほとんど無いです。ただ、昔よりも最近の方がカルチャーショックを感じます。当たり前だと思っていることが地域によって異なり、それぞれ地域差があって国内でも違うことを知りました。ご当地グルメがそうですね。例えば、栃木では焼きそばにじゃがいもが入っているのが普通なのですが、新潟の友人に話すとびっくりします。食べるのが好きだから、つい食事に目が向いてしまいますね。

 

木暮 旅行ライターとして日本にどんな印象を持っていますか。

 

パサナ 観光客に優しくて、安心して旅ができる国です。ただ、国内企業に勤める場合は少し事情が違うかもしれません。日本の職場は外国人にとって必ずしも居心地が良いわけではないという話も聞きます。日本人はまじめだけれど、終業時刻があいまいになっていることが多い。始業前から仕事が始まっているような雰囲気だったと感じているタイ人もいました。時刻厳守で時間を大切にしているようで、本当はあまり守られていない感じがします。

 

木暮 そのとおりかもしれません。就業時間のないフリーランスの立場だと時間が自由になりますか。

 

パサナ 執筆やウェブコンテンツの作成は静かな時間帯の方が集中しやすいので、ひと晩中、仕事をすることが多くあります。いったんアイデアが生まれると作業が止まらなくなってしまい、気付いたら夜が明けていたなんてことも。

 

 福島県-JNTO 2021タイプロモ 取材-400.jpg 

福島県で取材するパサナさん 

 

木暮 タイ人観光客向けの情報発信ではご苦労があったそうですね。

 

パサナ 初めの頃は大変でした。タイの人は湯沢をほとんど知りません。どうやってたどり着けるのかも分からない。アクセスや新幹線の乗り方まで当初は徹底的にフォローしました。同じ町にある上越新幹線の駅「ガーラ湯沢」と隣の「越後湯沢」をタイ人が混同するケースもありました。友人たちの力を借りながら時間をかけて両駅の違いなどを地道に発信しました。今は「雪を見るために日本に行くならガーラ湯沢」というほど知名度も上がりましたし、関連情報も出るようになっています。 

 

木暮 助けてくれたのは日本の人たち?

 

パサナ タイの人たちの方が多いです。在日メディアも増えてきましたが、初期の頃はタイの現地メディアがほとんどです。私のSNS(会員制交流サイト)をフォローしてくれる人は2万人ほどですが、あえてフォロワーを増やそうとは思っていません。あからさまに情報発信力をアピールしてしまうと、ライバル視されることもあるのです。自分から出す情報は少なめにして、メディアで働く友人たちに広めてもらうことにしています。持っている情報は「自分発」のままにしない。SNSを更新している友人がそれぞれ情報を拡散すれば、もっとリーチは増える。このやり方で越後湯沢の情報は効果的に広まりました。情報を発信する目的は越後湯沢に1人でも多く集客することなのです。情報は誰が出しても同じ。足りないと感じたときだけ私が情報を追加すればいいと思っています。マスメディアに伝えてもらった方が人は集まります。目的は達成しているわけですから、それでいいのです。 

情報交換が好きな国民性 

 

木暮 タイからの旅行客が増えている実感はありますか。

 

パサナ コロナ禍になる前は毎年のように感じていました。タイ人のコミュニティでもよく「湯沢」が話題になっていましたから。今は群馬県みなかみ町のお手伝いもしていて、観光協会のフェイスブックから情報発信にも携わっています。みなかみに来ている外国人旅行者の中でタイ人が1位になったと聞いています。 これまでは台湾の来訪者がトップだったのですが、団体客が多い。一方でタイ人は個人旅行が中心。それも家族連れが多く、知り合いの家族同士で連れ立ってきたり、祖父母と孫を含めた3世代で来日したりする場合もあります。

 

木暮 タイ人は家族愛がある?

 

パサナ 仲は良いと思います。子どもが企画した旅行に親がスポンサーとして参加するケースもあります。若い世代がネット検索を駆使して日本の情報を集めながら「こんな素敵なところがあるよ」と親に提案する。そうしたニーズを拾えるように動画やショートムービーといったコンテンツを取り入れながら、ネットを活用した情報発信に力を入れたいです。 

 

木暮 若い世代は渋滞の抜け道もツイッターを使ってあっという間に調べる。情報収集力には驚かされます。

 

パサナ タイ人旅行客もコミュニティサイトでよく情報交換します。コミュニケーションが好きなのだと思います。彼らのこうした能力は天災の時に威力を発揮します。日本を襲った台風の影響で飛行機が欠航した時もフェイスブックで頻繁にやりとりしていました。ツイッターより速かったかもしれません。

 

木暮 コミュニティが重要。

 

パサナ 大事ですね。フェイスブックに掲載する場合、私は写真を撮った現場からそのまま投稿し、反応を2時間ぐらいフォローし続けます。コメントにすぐに返信しないと、二度とページを見てもらえなくなることが多いですから。 

 

木暮 タイの人が元来コミュニケーション好きだというのは素敵ですね。

 

パサナ おしゃべりが大好きなのです。観光地を売り込む手法としてネットで導入しているのがオンラインツアー。写真や動画をアップロードするのもいいのですが、いま目の前にあるものを見たい人もいます。タイ人は一緒に歩きながら話すのも好き。ライブ配信も人気があります。ライターとして関わっているSNSのフォロワーは30万ほど。取材で九州や四国にも出掛けます。 

 

木暮 地方に住む人と打ち解けるのは難しくないですか。

 

パサナ 緊張して表情が硬い人を笑顔にするのは得意。才能だと思っています。年配の方には特に距離を縮め、怒られる寸前まで切り込みますが、最後にはお土産を手渡されるほど仲良くなれます。最近も取材先で干し柿をいただきました。日本の方は恥ずかしがり屋が多いですが、みなさん優しい。 

 

木暮 取材は楽しいですね。

 

パサナ 苦労もあります。自治体とも仕事をするのですが、税金で運営されているのである程度は理解できますが、業務が堅実になりがちです。定期異動も難。慣れてきた頃に担当者が代わることがあり、一緒に仕事をする上では難しさを感じます。後任が経緯を無視したり、これまでとは全く違う事業を企画したりする。観光客の誘致に10年ほど携わっていますが、改善を訴えてもなかなか届かない。組織の問題なのだと思います。

 

木暮 みなかみ町観光協会の仕事もされています。

 

パサナ みなかみ町での仕事はフェイスブックの投稿に関して「パサナの思ったようにどんどん発信して」と任せてくれる。 やりやすさを感じます。お互いを信頼しつつ、一定の約束事は守るという「めりはり」をつけながら、とてもいい関係が築けています。情報発信のペースも速くなっています。タイ出身だからこそ現地の情勢をすぐにキャッチできるし、的確なタイ語を使ってアピールできる。おかげさまで、コロナ以前まではみなかみ町のタイ人訪問客数も伸びています。 海外に発信したい自治体は地元で暮らしている外国人の意見を吸い上げるのも良いかもしれません。 

 

 群馬県みなかみ町 谷川岳登山取材-400.jpg

谷川岳を訪れるパサナさん 

 

木暮 今後は? 

 

パサナ 「海外の人が不自由なく日本を旅行できるようにする」という目標に向かって、当面はこつこつ今のスタイルを続けていこうと思っています。日本人が気付けない部分をサポートしていきたいですね。(おわり)

パサナさんひとこと.png

 

二階堂パサナさんについては当社のFacebookでもご紹介しております。ぜひご覧ください。