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グローバルのヒント

グローバル・コネクター

2021年11月11日

第45回「個と向き合う」吉野哲仁さん

今回のゲストは訪日外国人向けの旅行サービスなどを手掛けるスタートアップ企業「WAmaging(ワメイジング)」で最高技術責任者(CTO)を務める吉野哲仁さんです。

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木暮 テクノロジーやモノづくりへの興味は昔からあったのですか。

 

吉野 中学生のころ、当時は珍しかったパソコンを父が自宅で仕事用に使っていた影響があったのだと思います。パソコンゲームで遊んでいるうちに、自分でも作りたくなっていきました。高校は情報処理科に進み、将来はプログラマーになりたいと思っていました。

 

木暮 中国に駐在されていらっしゃいますね。もともと海外志向がおありだったのでしょうか。

 

吉野 いいえ、当初は日本語しか話せませんでしたし、外国について特に考えていたわけではありません。システム管理会社に就職してエンジニアとして働き、サービスを自社で提供する企業への転職を模索していたころ、ヤフーの求人広告を見つけました。大量募集の時期だったのが幸いしたのか、運よくひっかかりました。今だったら採用されていないかもしれません。

 

木暮 世界的なIT企業に入社された印象はどうでしたか。日本との企業風土の違いはありましたか。

 

吉野 想像していたよりもグローバル企業という感じはしませんでした。もちろん部署によって差はあると思いますが、所属していた通販部門は日本人が多く「ウェットな」部分もあった気がします。

 

木暮 広く認知されている大手には、多様な従業員のよりどころとなる確固とした企業理念や方向性がはっきり示されていてうらやましく感じます。 

 

吉野 エンジニアリングの観点では米国本社に頼っていた側面がありました。米側と連絡をとりながら情報収集しなくてはならず、その面ではグローバルと言えるでしょう。

 

木暮 英語はどうでした?

 

吉野 エンジニアリングで必要な程度は分かりますが、やり取りはテキスト(文字)が多かったですね。今でも英会話は苦手です。

 

木暮 海外との接点は中国・アリババとの事業提携がきっかけですか。

 

吉野 当時ショッピング部門の注文システムに携わっていた縁で2010年に杭州に出張したことがあり、その数年後に本格提携する機会が生まれた際にも声をかけてもらいました。日本から社長に同行してトップ会談にも同席しましたが、当時は内容がちゃんと理解できず現場の雰囲気から「何かが決まったらしい」ことしか分からない。直後に上司から「吉野くん、来週から中国行ってくれ」と。 

 

 吉野様-400.jpg

 

木暮 そうでしたか。中国を代表する巨大企業での仕事はどうでしたか。

 

吉野 大企業特有の「縦割り」意識もあってか、誰とやり取りすればよいのか当初は戸惑うこともありました。ただ、彼らとの会話で印象的だったのは誰もが「市場を生み出す」という言葉を口にしていたことです。それまで国内のEコマース市場でシェア争いに汲々としていたので衝撃でした。アリババが見据えていたのはその先だったのです。 

 

木暮 興味深いですね。 

 

吉野 彼らを表現する言葉があるとすれば「徹底力」。とことん考え抜く姿勢に驚かされる半面、「ここまでやらなければ1番になれない」と気付き、これまでの自分の仕事に対する甘さを痛感しました。 

 

木暮 いい刺激になったわけですね。

 

吉野 時期的にも良かったのだと思います。関わっていた通販サイト自体が今後どうなっていくかの岐路に立っていましたし、自分にとってのターニングポイントだった気がします。思い返すと、12年ほどお世話になったヤフー時代のハイライトでした。あの時期の経験がなければ今どうなっていたか分かりません。 

 

前提を除外する 

木暮 中国についてはどのような印象をお持ちですか。 

 

吉野 生活する上で面倒に感じる部分もありましたが、当時は中国語が多少は話せるようになっていたので日常生活でほぼ支障なかったです。まだ日本で普及していなかったバーコード決済が中国では日常的に使われていたので、Alipay(アリペイ)やWechat Pay(ウィチャットペイ)の登録をしてよく使っていたのをよく覚えています。最初はバーコード決済のメリットがよく分からなかったのですが、Alipayの担当者と話したり実際に使ってみて、データ活用などビジネスの広がりや利便性を実感し、とても可能性を感じたことが印象的でした。 生活は基本的にはホテル暮らしでしたので住まいは安心なのですが、ビザの関係で2週間おきにいったん帰国する必要がありました。金曜日の夕方に日本へ帰ってそのまま週明けの早朝便で中国に戻る生活が続きました。空路で3時間ほどとはいえ、隔週となると体力的には厳しい。 

 

木暮 私も年を追うごとにインドへの出張が肉体的につらくなってきました。

 

吉野 移動での過ごし方にも工夫が必要でした。少しでも体を休めるように気を使っていましたね。

 

木暮 どのように中国語を勉強されたのですか。

 

吉野 漢字がベースにあるとはいえ、会話は苦労しました。システム開発のエンジニアだった20代前半の頃、ソフトウエア開発が盛んだった中国に生まれて初めて出張に行きました。コミュニケーションをとることを含め何もかもが初めてで、現地の人たちの輪に入れずニコニコしているだけ。会話はほとんどできませんでした。その時に味わった疎外感が原体験となり、もっと中国語を知りたいという思いから勉強を始めました。

 

木暮 マスターするのは難しいのでは?

 

吉野 当時親しかった中国人の友人から教えてもらったのが良かったのかもしれません。通信手段といえば電話がメーンの時代。聞き取る力と伝える力は鍛えられたような気がします。 

 

木暮 一生懸命になれる秘訣ですね。コミュニケーションでの違和感はありましたか。

 

吉野 当たり前の話ですが、いろいろな方と話してみると「みんなそれぞれ違う人なんだな」ということを実感しました。今まで漠然と「中国人」というくくりでしか捉えられていなかったのですが、友好的な人もいればそうでない人もいる。それぞれ違う「個」として見ないと分からないことが多いなと気付かされました。

 

木暮 私も米国へ留学した高校生の時にホームステイ先から「家族への愛情が見られず一緒にいられない」と告げられ、下宿先を替えた苦い経験があります。

 

吉野 こうした経験などもあって、自分の思いも寄らない考え方があることが身に染みて分かりました。

 

木暮 中国での仕事相手は技術系の人たちが中心。コミュニケーションで気を付けたことはありますか。

 

吉野 相手も知っているだろうという前提が違い、言葉や単語の選び方に気を使いました。語彙(ごい)力が問われますね。できるだけ簡単な表現にしたり、複数の意味がある言葉は避けたりしました。使おうとする単語にも否定的な意味が含まれていないか、話す前に考え、あいまいさを排除できる言葉を選ぶようにしたことです。

 

木暮 同感です。ひとつ間違うと「炎上」(批判が殺到すること)の一因になったりしますね。お勤めの会社には外国出身の方も多いのだとか。

 

吉野 社員の4割以上は外国人で、エンジニアやデザイナーが所属する部門だと半数を占めます。ただ、結果的にそうなっただけなのです。採用のポイントは日本のことが好きで情報発信に意欲的な人であることなのですが、海外に日本の魅力をアピールするという当社の事業内容に賛同された外国の方が求人にも興味も持ってくださるようですね。 

 

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 フラットで風通しのよい環境でお仕事されるスタッフの皆さん=吉野さん提供 

 

木暮 旅行業は新型コロナウイルスの大打撃を受けています。技術開発部門の責任者としての難しさはどんな点ですか。 

 

吉野 旅は現地に行く前から想像するだけでワクワクする。ただ、期待通りにいかなかった場合の失望感も大きく、心の動きの落差も激しい。旅行は「非日常」ですから、準備のためにウェブサイトを利用する機会も一般的な通販サイトほど多くはありません。設計上で気を付けるべき点も異なります。ユーザーは一度がっかりするとほかのサイトに流れてしまいますので、1回の訪問でどう印象を残せるか、分かりやすく伝えられるかが重要です。旅の場合、予約の不具合が現地到着後に判明するといったこともあります。当社は旅の前から終わりまでユーザーの気持ちに寄り添ったサービスをしたいと思っています。 
 

木暮 外国人メンバーを率いる点についてはどうですか。 

 

吉野 出身がそれぞれ違いますから、それぞれ「個」として向き合っています。国籍にとらわれたりレッテルを貼ったりしない。統計的なデータはあるのかもしれませんが、その人がステレオタイプ通りとは限りません。 
 

木暮 思い込みは視野を狭めますね。違いを認めて前向きになる。 

 

吉野 その通りですね。「みんな同じだよね」はしない。 
 

木暮 今後の展望は? 

 

吉野 日本のインバウンドを背負って立つ会社にしたいです。 外国人旅行者の方々が日本で素晴らしい体験をして、将来は住みたいと思えるほど好きになってもらう。そこからインバウンドと日本の地方創生をつなげられるようになりたいですね。当社ではエンジニア、マーケティング職、営業職を中心に積極採用中です。詳しくはこちら をご覧ください。(おわり) 

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吉野哲仁さんについては当社のFacebookでもご紹介しております。ぜひご覧ください。