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グローバルのヒント

グローバル・コネクター

2020年5月14日

第6回「気持ちが入っていないといい仕事はできない」森本容子さん

今回のゲストは、かつて「カリスマ店員」として若い女性から圧倒的な支持を集め、現在はクリエイティブディレクターとして活躍する森本容子さんです。

 

木暮 現在はご主人の拠点であるバリと日本を往復され、育児が中心の生活とか。 

 

森本 半分「引退」したような感覚ですね。ここ(インタビュー会場となった「IVY PLACE」)も好きで通っているうちに店員さんの着ている服が気になってしまい、「私がいい服装を提案できますよ」と声を掛けました。すぐにお店側も反応してくださり、全店舗の衣装をお手伝いしています。私のオフィスは規模が大きくないので、発注の枚数がまとまらないと実現が難しいのですが、とんとん拍子に話が進みました。 

 
木暮 店員の方の服が気になるのですね。 

 
森本 スーツを仕立てる男性と比べて、女性は洋服のサイズを間違って着ている人が多いです。これまでずっと言ってきているのですが。 

 
木暮 ついつい声をかける? 

 

森本 教えてあげたい、からやっている感じです。販売している「ショップチャンネル」で多い顧客層は60~70代の女性を筆頭に、50~40代と続くのですが、そういった方は体型がごまかせないブラウスやニットを選びがち。「どうして難しい格好をしたがるのかな」と思います。楽に着られて、おしゃれそうに見える服を選ぶことについては自信があります。かっちり着こなさない、ちょっとでもスタイル良く見られたい、カジュアルに見えていてもこっそり工夫を入れる、というのが得意なんです。 

 
木暮 こうしたい、という思いが先にあるわけですね。 

 

森本 テレビショッピングのお話は10年ぐらい前にも浮上していました。当時は直営店の運営やアドバイザリー契約なども手掛けていた上、テレビ通販に対してあまり良いイメージがわかず、偏見もあったと思いますが、「世界観がない」という印象があり実現しませんでした。ショップチャンネルから話をいただいた当時は、一緒に働いているデザイナーも私も妊娠や子育てを考え、ブランドを縮小して店舗の閉鎖を進めていた時期でした。私たちは自社の生産工場を持たないのですが、製造を担当してくれるメーカーも付いていることなどが後押しとなり「やってみようか」という気になったのです。自分自身のプライドというよりも気軽に楽しんで着てもらえる「低価格のカジュアル服」をやってみたいという思いがありましたね。 

 
木暮 高級車メーカーが大衆車も手掛けたくなった感じですか。ブランドのイメージがあるから大変だったのでは? 

 

森本 作り上げたものを壊したいという性分なのでしょうね。「安定」を嫌う性格なのだと思います。あとから気付いたのですが、自分では意識していないのに、結果的に壊しているということが何度かありました。 

 
木暮 自分が立ち上げたブランドも辞められたそうですね。何か心に期するところがあったのだと思いますが、その後の心境に変化はありましたか。 

 
森本 独立して取り組んだセルフプロデュースでも売れたことで自信が付きました。 

 
木暮 何でもできると。 

 
森本 手掛けたブランドが年商20億を超える事業規模に成長するのを目の当たりにし、ブランド提案という仕事そのものについては「何ていい仕事なの!」と思うまでになりました。 

 
木暮 当時のトレンドをあまり意識しなかったのが成功につながったという見方もあるようですね。 

 

森本 若かったもので。師匠をはじめとする才能のある人から教わっただけです。 

 
木暮 今や1児の母。ご主人が拠点にするバリでの生活はどうですか。 

 

森本 彼はもう20年近くインドネシアで暮らしており、出会った時にはお互いに基盤がありました。バリはなかなか大変です。家が突然、真っ暗になってもまず外を見渡して近所一帯が停電なのかを確認し、うちだけじゃないと分かると安心する、そんな生活です。電気料金をコンビニで先払いする「プルサ」という仕組みも日本と違いますね。 

 
木暮 バリといえば一般的にリゾートを思い浮かべますからね。 

 

森本 ホテルでは訓練された従業員からサービスが受けられます。日常生活は飲料水の問題など衛生面に気を付けています。 

 
木暮 それまでに海外は? 

 

森本 仕事の関係で欧米、香港や中国にも。 

 
木暮 海外に行くとリフレッシュできますか。 

 

森本 仕事も生活の一部という感じです。楽しいと思える仕事しか引き受けないです。 

 
木暮 言ってみたいセリフです。 

 

森本 我慢して仕事を請け負うことが減りました。生活のために請ける仕事というものもなくなりました。息子もまだ小さいし、一緒にいたい。できることなら保育園にも入れたくなかったくらいです。仕事と家庭の向き合い方としては、今は家のことがしたいです。 

 
木暮 素敵ですね。 

 

森本 かつて死ぬほど働いたという自負があるからだと思います。今は半分引退しているような感覚なのです。ショップチャンネルでは30分間でブラウス7000着を売り切ったのですが、記録としても多かったみたいです。担当の方から「森本さん、これは伝説になりますよ」と言われました。 

 
木暮 すごい。やれることがまだたくさんある感じですか。 

 

森本 今は事業規模が小さいので、言いたいことが言えます。50~70代といったお客さまとの年齢も近くなり、襟ぐりの詰めなど、母の世代の悩みも分かります。楽しんでやらないと伝わりませんし、気持ちが入っていないと売れないですね。 

 
 

木暮 思いが詰まっていないとね。 

 

森本 私たちの仕事はサービス業です。喜んでもらうのが仕事です。自分たちが楽しくサービスを提供する気がないなら「やめればいいのに」と思ってしまいますね。 


木暮 かっこいいですね。 

 

森本 とはいえ、自分本位ではうまくいきません。自分の利益だけを求めていても失敗します。無理のないところでやっています。  
 

木暮 激動の人生をくぐり抜けた実感でしょうか。 

 

森本 これまでに離婚や横領事件なども経験しました。友達と「死なずにいられてよかったね」と振り返ることがあります。今はできるだけ静かにしている感じですね。  
 

木暮 でも目は輝いていますよ。 

 

森本 主人には「今は投資の時期だぞ」と励まされています。これまで自分で何かを開拓したことがないような気がしているのですが、将来は道が開けるかもしれませんね。20年後にはまた返り咲きたいですね。(おわり)