グローバルのヒント
木暮知之のインサイト
主語は「われわれ」
仕事の進め方や価値観の違いを、どのように乗り越え、コラボレーションにつなげていくか。グローバルプロジェクトにおいて、常に向き合い続けるテーマである。
あるプロジェクトで、海外拠点が長年使用してきた基幹システムを導入する取り組みに関わったことがある。開発元ベンダーと連携しながら導入準備を進める体制で、主要メンバーの一人は海外を拠点に活動するコンサルタントであった。会議の大半はリモート参加。陽気でほがらかな人柄で、当初は経験豊かな頼れる存在と見られていた。
しかし、3か月ほど共に働く中で、日本側メンバーとの間に小さな摩擦が生まれ始める。締め切りに対する感覚の違いである。議論の理解度に問題があるわけではない。だが、成果物の提出が想定より後ろ倒しになる場面が重なり、日本側にいらだちが蓄積していった。その不満は、プロダクトマネジメントを担う当社PMのもとに寄せられるようになる。もっと強く是正してほしい――そんな声であった。
PMは板挟みになる。だが、どちらか一方の側に立つだけでは、状況は好転しない。海外コンサルタント側にもフォローが必要であると考えた。「日本側の要求が細かく感じられているのではないか」。オフラインの対話の中で、本音や負荷感を丁寧に聞き取っていった。
PMは、ある意味で八方美人であるべき存在だと思う。全方位外交を貫き、中立を保つ。互いが気持ちよく仕事ができる地ならしを行い、双方に改善が必要な点があれば促していく。
日本のプロジェクトでは、綿密な計画や精緻な段取りが重視される。一方で、その「仕事の流儀」を無意識に相手へ求めてしまう場面も少なくない。だからこそ、最低限押さえるべきポイントは何かを整理し、期待値を現実的にすり合わせていく必要がある。
仕事の進め方や考え方は違って当たり前である。特にグローバルプロジェクトにおいてはなおさらだ。重要なのは、お互いをリスペクトしながらも、プロジェクト遂行のために適切なコミュニケーションを取り続けることである。
感情的な対立を避け、同じゴールに向かって前向きに進める環境を整えること。PMの役割は、期日管理やエスカレーション(上位者へ報告し、判断を仰ぐこと)だけではない。関係者が前向きに成功を目指せる状態をつくることにこそ、本質がある。
見えないところで関係者をどうつなぐか。どちらか一方の意見を尊重するだけではなく、全体最適の視点で関係を編み直していく。プロジェクトの主語は、「あなた」と「私」ではない。「われわれ」である。
そのスピリットが根づいたとき、文化や価値観の違いは、対立ではなく推進力へと変わっていくのだと思う。