グローバルのヒント
木暮知之のインサイト
エスカレーションという決断
あるAIを活用した業務効率化システムの開発プロジェクトの現場で、こんな場面を見たことがあります。
営業は次々と新しい案件を受注してきます。会社にとっては喜ばしいことです。
一方で現場では、エンジニアやプログラマーの数が足りない状態が続いていました。
離職も重なり、残ったメンバーに負担が集中していきます。
納期は守れず、遅延が続く。顧客からも「今度は大丈夫なのか」という不安の声が出始めます。
現場のメンバーは、それでも何とかしようとします。
目の前の作業を片付けながら、現状を立て直そうと努力します。
しかし状況はなかなか変わりません。
問題は共有されているものの、事態を動かす大きな判断にはなかなかつながらない。
その結果、現場の疲弊だけが少しずつ積み重なっていきます。
こうした状況を前にすると、私はエスカレーション(役職者や責任者に状況を伝え、判断を仰ぐこと)の意味について考えさせられます。
エスカレーションという言葉に、少しネガティブな印象を持つ人もいるかもしれません。
問題を上に伝えることは、自分の能力不足を示すことになるのではないか。あるいは、問題を作った人だと思われるのではないか。
そのような理由で、エスカレーションをためらう場面を、私はこれまで何度も見てきました。
しかし、本来のエスカレーションはそういうものではありません。
プロジェクトを前に進めるための重要な手段です。
現場でできることには限界があります。
追加の人員を投入するのか。
開発領域を絞るのか。
期限を見直すのか。
こうした判断は、現場だけでは決められません。
だからこそ、状況を整理し、上の判断を仰ぐ必要があります。
エスカレーションは強力な手段ですが、いくつか注意すべき点もあります。
第1に、エスカレーションの結果が現場にとって必ずしも快適とは限らないことです。
人員の変更や体制の見直しが行われれば、現場は戸惑うこともあります。しかし、現場におもねるだけでは状況が打開できないこともあります。
第2に、問題の根本原因を見誤らないことです。
原因の整理が不十分なまま対策を提示しても、状況は改善しません。だからこそ、ファクトベースで状況を整理することが重要になります。
第3に、誰にエスカレーションするかです。
役職として上でも、必ずしも意思決定ができるとは限りません。プロジェクトを動かす判断ができる相手を見極めることも、PMにとって重要な仕事です。
そしてもう1つ大切なのは「エスカレーションがメンバーを守ることにつながる」という点です。
無理な状況を現場だけで抱え続ければ、チームは疲弊します。
状況を正しく伝え、判断を仰ぐことは、チームを守ることでもあります。
エスカレーションは、単に問題を責任者に伝えることではありません。
プロジェクトを前に進め、メンバーを守るための責任ある行動です。
だからこそ、エスカレーションは大切なのです。 ]
