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グローバルのヒント

木暮知之のインサイト

2026年4月1日

ワンチームは幻想である―グローバルPMがまず捨てるべき前提

「ワンチームで乗り越えましょう」

グローバルプロジェクトのキックオフで、こうした言葉を耳にすることは少なくない。この言葉は、2019年のラグビーワールドカップで日本代表が掲げたスローガンとして広く知られている。異なるバックグラウンドを持つ選手たちが一つのチームとして結束し、強豪国に挑んだ姿は、多くの人に感動を与えた。

 

しかし、この成功体験をそのままグローバルプロジェクトに当てはめるのは危険である。なぜなら、ラグビー日本代表は「ワンチーム」になるための前提条件が全てそろっていたからだ。共通の目標、統一された指揮系統、明確な役割分担、そして同じ勝敗で評価される環境。言い換えれば、利害が完全に一致した組織である。

 

一方、グローバルプロジェクトはどうか。本社、現地法人、ベンダー。それぞれは異なる上司に評価され、異なるKPIを持ち、異なる優先順位で動いている。本社はスピードを求め、現地は安定運用を重視し、ベンダーは契約範囲内での効率を追求する。つまり、同じフィールドに立っているようでいて、実際には別々の試合を戦っているようなものだ。

 

この状況で「ワンチーム」を掲げても、現実は変わらない。会議の場では合意しているように見えても、現場ではそれぞれの評価軸に従って行動が分かれ、やがてズレが蓄積する。そして気づいたときには、スケジュール遅延や品質問題として表面化する。

 

多くのプロジェクトが失敗する理由はここにある。「関係性を良くすればうまくいく」「同じ目的を共有すれば自然と動く」という発想は、日本国内では有効でも、グローバルでは通用しない。問題は人ではなく、構造にある。

 

では、どうすべきか。まず必要なのは、「チームは分断されている」という現実を受け入れることだ。その上で、利害の違いを前提にプロジェクトを設計する。

 

ここで重要になるのが「評価軸をそろえること(インセンティブの整合)」である。人は、自分が評価される指標に従って行動する。本社がリリース日で評価され、現地が運用安定性で評価されている限り、どれだけ「同じ目標」を掲げても行動は、そろわない。これは意識や姿勢の問題ではなく、構造の問題である。

 

したがって、プロジェクトでは「自然に正しい行動が選ばれる状態」を作らなければならない。例えば、リリースのスピードと初期障害の両方を共通KPIとして設定する、あるいは「スピードを優先する場合は一定のリスクを許容する」といったトレードオフを明示する。さらに重要なのは、最終的にどの判断軸を優先するのか、意思決定の責任を明確にすることである。

 

ここでもう一度ラグビーの例に戻ると、チームが機能するのは精神論ではなく構造があるからだ。全員が同じスコアで評価されるからこそ、フォワードもバックスも役割を越えてチームのために動く。もしポジションごとに評価軸が異なれば、チームは成り立たない。

 

グローバルプロジェクトでも同じである。重要なのは「仲の良さ」ではなく、「機能する構造」だ。

 

さらに重要なのは、コンフリクトを避けないことである。ラグビーにおいても、激しいコンタクトは試合の本質であり、それを避けることはできない。同様に、利害が異なる組織同士では衝突は必然である。それを表面化させずに進めることこそがリスクであり、むしろ早期に顕在化させ、意思決定につなげるべきである。

 

グローバルプロジェクトにおいて、「ワンチーム」は理想ではなく、しばしばリスクとなる。求められるのは一体感ではなく、機能する構造だ。プロジェクトマネージャーの役割は、チームをまとめることではない。異なる利害を持つ組織を前提に、意思決定が機能する仕組みを設計することである。

 

チームは自然に生まれるものではない。設計されて初めて、機能する。