グローバルのヒント
木暮知之のインサイト
PMに求められる「Active Bystander」という姿勢
皆さんは「Active Bystander(アクティブ・バイスタンダー)」という言葉をご存じでしょうか。
直訳すると「積極的な傍観者」です。一見すると矛盾した言葉に聞こえます。私たちは誰かが困っている場面や、不適切な発言、ハラスメントにつながるような場面に遭遇したとき、「自分には関係ない」「誰かが言うだろう」と考えがちです。これは心理学でいう「傍観者効果(Bystander Effect)」です。
では、Active Bystanderとはどのような人なのでしょうか。それはヒーローになる人のことではありません。「見て見ぬふりをしない人」のことです。大声で相手を非難することでもありません。小さくても良いので、一歩踏み出す人です。
人ではなく、行動に働きかける
Active Bystanderの考え方で重要なのは、「人を攻撃するのではなく、行動に働きかける」ということです。例えば会議で、「そんなことも分からないの?」という発言があったとします。このとき、「あなたはパワハラだ」と相手を攻撃するのではなく、「その言い方だと質問しづらく感じる人もいるかもしれません」と行動に目を向ける。人格ではなく、行動について対話するのです。これは相手の尊厳を守りながら、より良い行動を促すアプローチです。
ドラマの中のActive Bystander
私が好きな例は『VIVANT』です。主人公たちは立場や意見が異なっていても、「お前は間違っている」ではなく、「その判断の根拠は何か」「その選択によるリスクは何か」と問いかけます。相手を否定するのではなく、行動や判断に向き合っています。
また『下町ロケット』の主人公、佃航平も同様です。部下が失敗しても、「お前はダメだ」とは言いません。「何が起きたのか」「次にどう改善できるか」を一緒に考えます。これは単なる優しさではなく、組織を強くするための姿勢です。
PMこそActive Bystanderであるべき
私はPMという仕事は、Active Bystanderそのものだと思っています。プロジェクトでは日々さまざまなことが起きます。会議で誰かの発言が無視される。若手が発言できずにいる。顧客との関係で無理な要求が常態化する。部署間で責任の押し付け合いが起きる――。こうした場面では「自分の担当ではない」と見過ごすこともできます。しかし優れたPMは見過ごしません。だからといって誰かを糾弾するわけでもありません。「一度整理しましょう」「○○さんの意見も聞いてみませんか」「この進め方で本当に大丈夫でしょうか」そんな小さな一言を添えます。その一言がチームを守り、プロジェクトを守ります。
誰でもActive Bystanderになれる
Active Bystanderは特別な才能ではありません。正義感の強い人だけができることでもありません。まずは気づくこと。そして小さく介入すること。会議後に声をかける。チャットでフォローする。別の視点を提示する。相談窓口につなぐ。それだけでも十分です。私たちが目指したいのは、「勇敢な一人」をつくることではありません。誰かが困っていたら、自然に一歩踏み出せる人がたくさんいる組織です。
PMという仕事もまた、その実践の連続なのだと思います。
