グローバルのヒント
木暮知之のインサイト
AIとの付き合い方──最後に判断するのは誰か
先日報じられた著名人の家庭内トラブルを巡るニュースでは、人工知能(AI)への相談が意思決定の一部に関わった可能性が話題となった。
AIが私たちの日常に浸透する中で、悩み事や判断に迷った際にAIへ相談することは、もはや特別なことではなくなっている。むしろ今後、そのような場面はますます増えていくだろう。
一方で、PMとして日々さまざまな意思決定に向き合う立場から見ると、今回の件はAIとの付き合い方について重要な示唆を与えているように思う。
1. コミュニケーションの欠如
AIは膨大な知識を持ち、客観的な選択肢を提示してくれる。しかし、当事者同士の関係性や感情の機微までは完全に理解できない。
問題が深刻になるほど、本来対話すべき相手とのコミュニケーションは難しくなる。しかし、その対話を避けてAIだけに相談してしまうと、状況の理解が一面的になりやすい。
AIとの対話が増える時代だからこそ、人との対話の価値はむしろ高まるのではないだろうか。
2. 部分最適と全体最適
AIや専門家は、それぞれの領域において適切な助言をしてくれる。
しかし現実の意思決定は、1つの観点だけで完結するものではない。
例えば法的・制度的な観点から見れば正しい行動であっても、それが家族関係にどのような影響を与えるのか、本人の将来にどのような変化をもたらすのか、周囲にどのような波及効果があるのか、といった複数の視点を同時に考える必要がある。
専門家は専門領域について助言してくれる。AIもまた、与えられた前提の中で合理的な提案をしてくれる。しかし、それらを統合し、全体としてどのような結果になるのかを考えるのは意思決定者自身の役割である。
PMの仕事に例えるなら、各ステークホルダーが提示する部分最適な意見を統合し、全体最適な判断を下すことに近い。
3. 自身の直感(Gut Feeling)との整合性
AIは論理的で説得力のある回答を返してくれる。
特に人が不安や怒り、焦りといった感情的な状態にあるとき、その回答は非常に魅力的に見える。自分が求めていた答えを見つけたような感覚になることもある。
しかし、どれだけ合理的に見える提案であっても、一度立ち止まって「自分は本当にそう思うのか」を問い直すことが大切だ。
経験から得た感覚や違和感は、ときにデータやロジックでは捉えきれない重要なシグナルになる。
AIは優秀な相談相手だが、意思決定者ではない
私はAIを積極的に活用しているし、これからも活用すべきだと思っている。
ただし、AIはあくまで優秀な相談相手であって、意思決定者ではない。
AIの知見を参考にしながら、人と対話し、多面的に影響を考え、自分自身の感覚とも照らし合わせる。そのプロセスを経て初めて、より良い判断に近づけるのだと思う。
これからの時代に求められるのは、AIを信じることでも疑うことでもない。
AIを活用しながらも、最後は信頼できるパートナーや専門家と相談し、自分自身の責任で判断すること。
その姿勢こそが、AI時代のリテラシーなのではないだろうか。
