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グローバルのヒント

木暮知之のインサイト

2026年7月17日

戦略的思考とは「多くの景色を思い描く力」である

「原因は○○です。」
「解決策は△△だと思います。」
若手コンサルタントのレビューをしていると、このような提案を受けることがよくあります。
もちろん、一生懸命考えた結果です。しかし、「本当にそうだろうか?」と感じることも少なくありません。
詳しく話を聞いていくと、多くの場合、思考力が足りないわけではない。見えている世界が狭いのです。
私たちは誰でも、自分の立場から世界を見ています。
営業担当者は売上を重視します。
開発担当者は品質を重視します。
そして社長は、会社全体を見ます。
同じ出来事を見ても、それぞれが見ている景色はまったく違います。
つまり、人は「事実」を見ているようで、実は「自分の立場」から物事を解釈しているのです。
 

これはコンサルティングでも同じです。
例えば、「工場を閉鎖する」という選択肢があったとします。
数字だけを見れば、合理的な判断かもしれません。
しかし、工場長や現場で働く社員はどう考えるでしょうか。
営業は顧客への影響を心配するでしょうし、人事は配置転換や退職者への対応を考えます。
地域社会は雇用への影響を懸念するかもしれません。株主は利益改善を期待します。
海外本社はグローバル全体の生産戦略という視点で判断するでしょう。
1つの意思決定にも、これだけ多くの「正しさ」が存在します。
だからこそ、優れた戦略とは、1つの正解を見つけることではありません。
異なる立場から見える景色を理解し、その中で最適な着地点を見つけることなのです。
 

では、そのような視野は経験を積まなければ身につかないのでしょうか。
もちろん経験は重要です。
しかし、経験だけではありません。
経験豊富でも、自分の専門領域からしか物事を見られない人もいます。
一方で、若手であっても、多くの立場から考えられる人はいます。
違いは何でしょうか。
私は、それは「想像力」だと思っています。
正確に言えば「自分以外の誰かになりきる力」です。
社長だったらどう考えるだろう。
現場担当者だったら何を恐れるだろう。
顧客だったら何を期待するだろう。
競合企業ならどう動くだろう。
投資家だったら、この決断をどう評価するだろう。
こうした問いを繰り返すことで、平面的だった問題が、立体的に見えてきます。
 

私は若手コンサルタントに、時々こんな課題を出します。
1つのテーマについて、「最低10人の立場」で考えてみてください、と。
例えばDX導入であれば、
①社長②CFO③CIO④現場社員⑤ベテラン社員⑥若手社員⑦顧客⑧協力会社⑨株主⑩労働組合
それぞれが、
「何を期待するのか」
「何を恐れているのか」
「何を失うのか」
を書き出してみる。
すると、不思議なことに、最初に考えていた「唯一の解決策」が、実は数ある選択肢の1つに過ぎなかったことに気づきます。
この訓練は、経験年数に関係なく、誰でも始められます。
 

そして、この「他人になりきる力」をさらに効果的に鍛える方法があります。
それが、私たちが取り組んでいるイマーシブ(没入型)研修です。
これは単なるロールプレイではありません。
参加者が、普段とは異なる立場や役割を本気で演じ、その人物として意思決定を行う。
社長として決断する。
海外拠点長として本社と交渉する。
顧客として提案を受ける。
部下として上司に意見する。
その瞬間、人は知識としてではなく、感情を伴って「他者の視点」を体験します。
資料を読むだけでは得られない気づきが生まれ、戦略的な視野は大きく広がっていきます。
 

コンサルタントに求められるのは、正しい答えを持つことではありません。
多くの立場に立ち、多くの景色を見た上で、最善の答えを導き出すことです。
私は、戦略とは知識の量ではなく、
「どれだけ多くの他人になれるか」
によって決まると考えています。
そして、その力は才能ではありません。
想像し、対話し、そして時には実際に「他人になってみる」。
そんな訓練を重ねることで、誰もが身につけることのできる力なのです。